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2社長から今伝えたいこと、リーダーシップの勉強を始めようと私が思ったのは、三〇年以上前のことです。都庁で管理職になった頃、現役を退いたソニーの井深大(いぶかまさる)さんの講演を聴きに行ったんです。そこで井深さんは一時間ほどリーダーシップの話をされましたが、私にはよく分からなかった。すると終了後に、ある女性が手を挙げて「失礼ですが、いまのお話はよく分かりませんでした。私のような主婦にでも分かるように話をしてくれませんか」と言ったんです。司会者は大慌てでしたが、さすがは井深さんですね。ニコッと笑って、こんなお話をされました。「ソニーの社長時代、最新鋭の設備を備えた厚木工場ができ、世界中から大勢の見学者が来られました。しかし一番の問題だったのが便所の落書きです。会社の恥だからと工場長にやめさせるように指示を出し、工場長も徹底して通知を出した。それでも一向になくならない。そのうちに『落書きをするな』という落書きまで出て、私もしょうがないかなと諦めていた。するとしばらくして工場長から電話があり『落書きがなくなりました』と言うんです。『どうしたんだ?』と尋ねると、『実はパートで来てもらっている便所掃除のおばさんが、蒲鉾の板二、三枚に、”落書きをしないで下さい ここは私の神聖な職場です“と書いて便所に張ったんです。それでピタッとなくなりました』と言いました」井深さんは続けて「この落書きの件について、私も工場長もリーダーシップをとれなかった。パートのおばさんに負けました。その時に、リーダーシップとは上から下への指導力、統率力だと考えていましたが、誤りだと分かったんです。以来私はリーダーシップを”影響力“と言うようにしました」と言われたんです。リーダーシップとは上から下への指導力、統率力が基本にある、それは否定しません。けれども自分を中心として、上司、部下、関係団体・・・・・その矢印の向きは常に上下左右なんです。だから上司を動かせない人に部下を動かすことはできません。上司を動かせる人であって、初めて部下を動かすことができ、同僚や関係団体を動かせる人であって、初めて物事を動かすことができるんです。よきリーダーとはよきコミュニケーターであり、人を動かす影響力を持った人を言うのではないでしょうか。リーダーシップとは時と場合によってさまざまに変化していく。固定的なものではありません。戦場においては時に中隊長よりも、下士官のほうが力を持つことがある。ヘッドシップとリーダーシップは別物です。あの便所においてはパートのおばさんこそがリーダーだった。そうやって自分が望む方向へ、相手の態度なり行動なりが変容することによって初めてリーダーシップが成り立つのです。「一流たちの金言」(致知出版社)より抜粋。「リーダーシップとは影響力である」 ソニー創業者・井深大氏が語ったリーダー編トラストパークの企業理念にもある人間性を高める事へ繫がるように、社長がみなさんに伝えたい言葉等を題材にとりあげております。宮端清次(はとバス元社長)

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